KGBの男-冷戦史上最大の二重スパイ
1961年のベルリンの壁、1968年のプラハの春に対するソ連の軍事介入に幻滅、祖国に嫌悪感を募らせたKGBスパイ オレーク・ゴルジエフスキーが、70〜80年代の冷戦時代を敵国・イギリス MI6の二重スパイとして活動した史実。
全編通して緊迫感が半端なく、主人公が体感した「恐怖を感じていたが、決意は固めていた。コンタクトが終わるたび、ギャンブラーが勝負に出て賭けに勝った時のような興奮に震えたが、この興奮はこのまま続くのだろうかとも考えた」を疑似探検できる。
本書中盤のソ連の猜疑心を煽ったRYAN作戦が、1983年日本海上空で起こった大韓航空機撃墜事件に至った真相は衝撃。
そしてオレークからの情報をサッチャーとレーガンが共有することによって、ソ連との核戦争を回避したとあるが、こっちは当時そんな危機があったなんて思いもしなかった。
その後のゴルバチョフとの雪解けは、素人目にも西側が主導権握っていたように見えたが、本書を読めばこれもオレークの絶大な功績によるもの。
なんといっても文字通りクライマックスの脱出劇は、フィクションでしか成り立ちそうにない到底実現不可能な作戦。
この緊張感とスリルの心理描写は、映像でなく文字だから得られるカタルシス、ホントに手に汗握ってしまった。
本カバーを外した表紙は若かりし頃のオレークで、この頃から相当な切れ者感漂うハンサムで隙がない。
本書内には引退後の彼の写真もあるが、修羅場を生き延び伝説となった男の顔は更にカッコいい。
一方にもうひとり、私が親近感持ったオレークの同僚、唯一の親友であったミハイル・リュビーモフ。
彼はイギリス贔屓でハンティング、ツイードジャケット、パイプを吹かす異質のKGB情報員。
MI5からスマイリー・マイクと呼ばれ、二重スパイの勧誘を受けていたほど優秀だったが、2度の女性関係の失敗からKGBをクビになり、その後は小説家として生計を立てた。
緊張とストレスを生きる登場人物中、唯一弛緩作用を促す人間味のある憎めない存在。
ミハイルについて調べたらロシアで本を出版していた。
オレークとは正反対のこのふざけた風貌がたまらない。
邦訳出版祈願。