不自然な死因~イギリス法医学者が見てきた死と人生

不自然死は、事故や殺人で亡くなった遺体を解剖し、その原因を究明する法医学者が対象とする。
本書は、イギリスで長年その仕事を生業としてきた著者の自伝。

亡くなった遺体の生前の生活と、解剖によって明かされる所見から、死の真相を追求する話だけでも十分興奮するのに、著者が専門家として成長していく過程、社会人として家庭人として生活する上での、様々な葛藤も赤裸々に語られているのが興味深い。
専門家が陥りがちな自画自賛がなく、故に嫌味のない読みやすい文体は、最初著者の性格の良さからくるものだと思っていた。
しかし、そうやって自らを曝けだす衝撃的理由が本書の終盤に明かされる。
キャリアの円熟期に至って、これほどまでの人物でもこんなことが起きるなんて。
明日は我が身というのは大袈裟かもしれないが、なんだか酷く感情移入してしまった。

読み終えた後、本書最初に引用されたアレキサンダー・ポープの「批評論」の一節が、現代、特にコロナ禍以降を生活する自分には特に刺さった。
また、著者の「医学的証拠は極めて複雑で意見が分かれやすいのだ。事実は固体ではなく、形を変えやすい液体のようなものだ」にも深く感銘を受けました。

およそ500ページの分厚い自伝だけど、読みだすと止まらなかった。
超オススメ。

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