蔵ノ介と飼主さんへ

2018年から5年間、ずっと臼歯の不正咬合で1〜2ヶ月に1回の処置を続けた蔵ノ助。

故郷から名古屋に独りやって来て、頑張って生きている飼主さんが、仕事の合間見つけて毎回遅れず連れて来てくれた。
蔵ノ介、名前の印象と異なり繊細な神経の持ち主で、処置後の口内の感じがしっくりこないときは、歯に異常がなくなっても食べだしてくれなかった。
その度に硬直したオッサンの頭は試行錯誤で解されて、彼にはとても良い勉強をさせて頂いたと感謝している。

そして順調に年月を経て、今年9月に飼主さんと故郷に帰ることになった。

「寂しくなっちゃうね〜」

「故郷の◯◯はどんなところ〜?」

「えっ! 飼主さん刀剣が趣味なの? 僕もだよ〜」

「じゃあ、単眼鏡はもちろん持ってるよね?」

「そっか、故郷帰ったら刀剣ワールドは行けなくて残念だね」

と、飼主さんとの世間話に今更ながら花が咲いた。
私的には、あとはヘマすることなく蔵ノ介の定期処置をやり切るのみ。

しかし。。。

血液検査の結果と今後の予想を告げたときの飼主さんの涙顔が、いまだに鮮明に脳裏に焼き付いて離れない。
しかし見せた涙は1回だけ、以後は私の説明を瞬時に咀嚼し、仕事も予定より早く切り上げ、全身全霊で蔵ノ介の介護に当たってくれた。

そしてしばらく来院のない日々。。。
現実は容赦無く訪れて、飼主さんを悲しみの涙に溺れさせたか。
心の片隅で気にかけながら診療続けていた今日、独り飼主さんが菓子折り持って現れた。
其々の飼主さんで何度も見てきた光景なので、瞬時に理解して会話を進めた。
泣かないように踏ん張っている飼主さんの気持ちが、自分の胸に刺さる。

菓子折りと一緒に手紙が添えられていた。
読めば。。。
こんな小汚いオッサンが
とても信じ難いけど
泣くのよ。

蔵ノ介!
君は、優しく責任を全うした飼主さんと出会えて、羨ましいほどに幸せ者。

飼主さん!
今は、悲しくて、悲しくて、やりきれないけど、
必ず時間が癒してくれます。
必ず最後には良い思い出だけが残ります。
ずっと残ります。

故郷でお元気で!

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