フェアリー・テイル

御年77歳、「ホラーの帝王」スティーヴン・キングが2022年に上梓した長編小説『Fairy Tale』の翻訳書。
当時、アメリカは日本以上に深刻なコロナ禍にありました。
そんな状況下で、キングは執筆にあたり「What could you write that would make you happy?」という問いを心に掲げていたといいます。
暗い時代にあっても、「読んで元気になれる物語」を書くことが自分の使命だと信じ、筆を執ったのです。
作家生活50年。
数々の成功を収めた今なお、これほどまでに精力的に新たな物語を生み出す彼の意欲と創造力、そして思考の深さには、ただただ感服するばかりです。
現実世界とおとぎ話を融合させるとは──あっぱれです。
この作品は、読み始める前から「ハッピーエンド」が約束されている物語。
だって、書籍の帯に「お待ちかねのハッピーエンドへ」と宣言されていますから。
それでも、期待や不安が損なわれることはなく、そこにはいつものように、ホラーでありながら温かさを感じさせる“キングらしさ”が満ちています。
就寝前、ベッドサイドで読み始めると、夜を徹してページをめくり続け、読破したあとは脱力してそのまま眠りに落ちます。
すると決まって、その世界を夢に見るのです。
自虐的で悲観的な私は、本作のようなハッピーエンドを迎える主人公ではありません。
けれど、年季の入った脳みそは、それが夢だとちゃんと理解したうえで、嬉しいボーナストラックをたっぷり満喫しました。