バリ山行

己の読書趣味の中で、最も縁遠いのが「純文学」。
それでも過去に、ボクシングを題材にした芥川賞受賞作が刊行された際には読んだ覚えがある。
本書は、それ以来じつに6年ぶりに手に取った芥川賞作品となる。
タイトルの「バリ」とは、「バリエーションルート」の略称。
整備された登山道を外れ、藪をかき分け、時に岩場や滝をよじ登る──命の危険すら伴う山行のことだ。
物語は、建外装修繕会社に勤める、孤立気味な30代・家族持ちの男性社員が主人公。
ひょんなことから社内の登山サークルに参加し、“変人”と呼ばれる職人気質のベテラン社員と出会う。
その男は、登山道を外れたバリエーションルートに、毎週末ひとり黙々と挑み続けていた。
登山を通じて交わされる言葉、会社内でのリストラの不安、そして苦手な人間関係──
それらを経て、主人公は次第に“バリ山行”という行為そのものに魅せられていく。
──さて、ここまで読んで、「キャンピングカー所有」「焚き火会参加」「自然大好き」とくれば、当然「登山にも興味あり?」と思われるかもしれない。
いいえ、まったく。
過去に、ど田舎の道の駅から人気のない林道をちょっと覗いただけで、えも言われぬ恐怖感にとらわれ、あわてて文明に逃げ帰ったような、臆病なジジイでございます。
それでもなぜか、本書には引き寄せられ、一気に読了してしまった。
過去に読んだボクシング小説より、断然オモロイ純文学。
30代、悩める会社人──
特に、日々社会のストレスに晒されながら、静かに摩耗している人にとっては、読むべき一冊かもしれない。
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