「サンキュー、チャック」鑑賞事前心得

小説読了後、久々に考えさせられる作品だった。

案の定、現在の劇場公開においても、感動作である一方、鑑賞者の思考に強く訴えかける“油断禁物”の作品だと言われている。

作品の解釈は人それぞれ。個々が自由に感じ取ればよいと思う。
ただ一方で、無知からくる誤読は極力避けたい。
そんな時、個人的に頼りにしているのが、USA在住の映画評論家・町山智浩の寸評だ。
ネットで公開されているこちらは、鑑賞前に観ておくべき内容だと思う。

作品第3章で描かれる、どこか諦観を伴った「世界の終わり」。
第2章でようやく登場する主人公チャック、そして彼のダンスシーン。
第1章クライマックス、屋根裏部屋に潜む「映画史上最大の恐怖」。

この作品のテーマとして語られるのが、19世紀アメリカの詩人ウォルト・ホイットマン『Song of Myself』の一節だ。

「Do I contradict myself?
Very well then I contradict myself,
I am large, I contain multitudes.」

たった3行の詩でありながら、翻訳には相当苦心するらしい。
飯野友幸訳では、こう訳されている。

「おれは矛盾しているだろうか。
まあそれでもいい、おれは矛盾しているのさ。
おれは巨大だ、おれは多様性をかかえている」

小説では「I am large, I contain multitudes.」を、「私の中には無数の人たちが存在する」と解釈している。
第2章で、中学校教師が生徒チャックに伝えたのは、「人間は複雑で、矛盾を抱えていて当たり前であり、自分の中には無数の可能性や記憶、他者との繋がりが内包されている」という、人間存在の広大さだったのではないか。

また、主人公チャックの印象的なダンスを演じたトム・ヒドルストンは、小説内にも登場する『ヤンキー・ドゥードゥル・ダンディ』だけでなく、

ジーン・ケリー、

フレッド・アステア、

さらにはモンキーズやマイケル・ジャクソンまで参考にしたと語っている。

小説で膨らませた幻想を、改めて映像で味わう。
そして、自らの死生観を強く刺激されるであろう期待作。

これは、劇場で観るべき作品だ。

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