車の修理じゃないんだから
診察時、飼主さんのお話を伺っていて混乱してしまうことがあります。
「食べなくなったので連れてきたんですけど……」
そう言われて私は、食欲不振に焦点を当てて診察を始めます。
ところが途中で「ソアホックも気になるんです」「耳をよく振るんです」「涙も多い気がする」と、次々に別の症状が挙げられます。
挙句の果てには、「この前、〇〇のような症状が見られて、それも心配なんです」と言われ、「この前っていつの話ですか?」と尋ねると、「1ヶ月前です」と返ってくることも。
飼主さんの気持ちはよくわかります。
忙しい生活の中、貴重な時間を割いて来院されたのですから、「この機会に、愛兎の気になるところを一気に解決してほしい」と思われるのも当然のことです。
でも、それは無理な話です。
ウサギの体の不調は、車の修理のように、複数の問題を一括で解決できるものではありません。
命に関わる最重要の問題から優先して、ひとつずつ丁寧に治していく必要があります。
ヒトの医療と違い、獣医師は全科診療――内科も外科も、皮膚科、歯科、産婦人科、さらには心療内科のような分野まで診る仕事です。
とはいえ、それらをすべて同時進行で治療していくことには限界があります。
無理をすれば、当のウサギにとって大きなストレスとなってしまいます。
なぜなら、ウサギには「治療してもらっている」という概念がないからです。
今、最も苦しんでいる症状に対し、まず集中して治療する。
その効果を確認しながら、必要に応じて次の治療へ――
ウサギには、そんなふうに段階的に、丁寧に、時間をかけて向き合うことが必要なのです。