肥満ウサギの麻酔

さらにさらに、肥満ウサギの麻酔にも、以下のリスク要素があります。

  1. 呼吸器系のリスク増加
    ✔ 脂肪による気道閉塞のリスク
    肥満ウサギは咽頭や気管周囲に脂肪が蓄積しやすく、麻酔中に気道が狭くなったり、閉塞を起こしたりする可能性が高まります。
    ✔ 横隔膜の圧迫による換気障害
    腹腔内脂肪が多いと横隔膜が圧迫され、肺が十分に膨らまないことがあります。
    その結果、低酸素状態(低酸素血症)になりやすくなります。
    ✔ 酸素供給の困難さ
    肥満ウサギは胸郭の動きが制限され、効率的に酸素を取り込めなくなります。
  2. 血管確保が難しく、緊急対応が遅れる
    ✔ 脂肪が多く静脈確保が困難
    ウサギはもともと血管が細くて見つけにくい動物ですが、肥満により皮下脂肪が増えるとさらに静脈が埋もれてしまい、カテーテルを挿入するのが難しくなります。
    ✔ 緊急時の対応が遅れる
    静脈確保ができないと、麻酔薬や輸液の投与、救命処置が遅れるため、リスクがさらに高まります。
  3. 低血圧・循環不全のリスク
    ✔ 血管が脂肪に圧迫され、血流が悪化
    肥満ウサギは血管が脂肪により圧迫されやすく、血流が悪くなるため、麻酔中に低血圧になりやすいです。
    ✔ 心臓への負担が増加
    肥満ウサギの心臓は余分な体重を支えるために負荷がかかっており、麻酔による血圧低下に耐えられないことがあります。
    ✔ 麻酔薬の分布が不均一
    脂肪組織は麻酔薬を蓄える性質があるため、効果が予測しにくく、必要以上に強く作用することがあるため注意が必要です。
  4. 代謝異常と回復の遅れ
    ✔ 麻酔薬の代謝・排泄が遅れる
    脂肪が多いと、麻酔薬が脂肪に蓄積されやすく、術後の覚醒が遅くなることがあります。
    ✔ 術後の低体温リスク増加
    脂肪組織は熱を保持する反面、血流が悪いため、体温調節がうまくいかないことがあり、術後に低体温になりやすくなります。
  5. 消化器系のリスク増加
    ✔ 胃内ガス貯留や腸うっ滞のリスク
    肥満ウサギは胃腸の動きが低下しやすく、麻酔によってさらに腸の運動が悪化するため、術後に鼓腸症(ガス膨満)や腸うっ滞を引き起こしやすくなります。
    ✔ 食欲不振が続くと致命的
    ウサギは食欲が低下すると急速に状態が悪化するため、術後の迅速な食事再開が必要ですが、肥満ウサギは回復が遅れやすく、強制給餌が必要になる場合があります。
  6. ストレスへの脆弱性
    ✔ 肥満ウサギは運動量が少なく、ストレスに弱い
    ストレスがかかるとショックを起こしやすいため、麻酔の導入や覚醒時の環境をできるだけ落ち着かせることが重要です。

…と、これまで3回にわたって麻酔のリスクについてお話ししてきましたが、それでも有無を言わさず緊急手術が必要になる場合があります。
すぐに手術をして病気の原因を取り除かなければ、命が危険なケースです。

そして、そのような状況で運ばれてくる患者は「老齢」で「肥満」であることが少なくありません。
そのたびに、私は泣きそうになり、指先を震わせながら手術に臨むことになります。
逃げることはできません。

だからこそ、自分自身は暴飲暴食で太っているにもかかわらず、患者が肥満であると、つい飼主さんに厳しく指摘してしまうのです。
老齢であることは避けられないため、そこには何も言いません。

少しは、毎日手術をする獣医師のプレッシャーやストレスを想像していただけたでしょうか?

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