節子(姉)新人スタッフの話? 1
現在、姉が新人スタッフとして手伝ってくれているので、ウサギという生きものについて詳しく知ってもらおうと、診療の場を通してわかりやすく説明し続けている。
自分が考える「わかりやすく」は、ずばり「擬人化」だ。
たとえば、ウサギは「病院」や「治療」なんていう概念を持たないまま来院し、理解不能なまま、そばにいる飼主さんに助けられることもなく、私という「実に嫌なオッサン」に色々されるわけだ。
それも、自分が調子が悪いときに限って、毎回このオッサンのところに連れてこられる。
要するに、こっちの「早く元気にしてあげたい」「幸せに長生きさせたい」という愛情あふれる気持ちなんて、ウサギには1ミリも伝わらない。
彼らにとって私は、ただの「嫌なときに必ず会わされるオッサン」なのだ。
強制給餌をしながら、姉に説明する。
「ねえ、この目つき。こっちの指示には従ってるけど、信頼感ゼロなの分かる?」
「すんなり処置を受け入れてくれても、ウサギはワシのこと好きなわけじゃないんだよ」
「仕方ないよね、こっちの愛情や情熱は一生伝わらないんだから」
そして次第に話し方が自虐モードに突入。
「見てみい、この子の冷たい視線」
「ウサギだから耐えられるけど、これが人間の女性だったら心が死ぬわ」
「あれ? なんか最近もこんな体験した気がするけど……」
それ以上話し続けると、姉の前で涙を見せる50過ぎの悲しい弟になりかねないので、慌てて話をやめた。