才能

M夫妻の愛兎が老齢のために体重が減ってきたので、流動食による強制給餌を始めてもらうことにした。

……とはいえ、言うは易く行うは難し。
なかなかうまく習得できずにいる夫人は、少しやつれて見えて、私としてはウサギよりそちらの方が心配になってしまう。
それでも「なんとかしてあげたい」という一心で、何度も来院され、私の手技を真剣な眼差しで見つめている。

「これね、結局は“タイミング”と“テンポ”なんだよね。
ウサギがまだ咀嚼してる最中に次の一口を入れちゃうと、当然嫌がる。
かといって、嚥下してから間が空きすぎると、今度は不機嫌になる。
絶妙のタイミングで口に運びつつ、相手のペースに合わせていけば、数分で20〜30ccはいけるんだよ」

そう説明しながらチラッと夫人の方を見ると、自分ができないことを責めているような、深刻な表情をしていた。

そこで私は少し笑いを交えて言った。

「僕ね、初対面のウサギでもこれできちゃうんで、たぶんちょっとした特技というか、才能なんでしょうね。
本当はこういう能力、人間の異性相手に発揮したかったんだけど……これまで、どれだけタイミングとテンポが合わずに失敗してきたことか……」

夫人はクスッと笑ってくれた。
すると、保定役の姉に向かって、ご主人が一言。

「姉さん、あとで弟さんの尻、蹴り上げといてください」

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