やるしかないわな
今から30年以上前の話。
大学2年生のゴールデンウィーク、青森県十和田の下宿先で、それまで経験したことのない腹痛に襲われた。
その頃は携帯電話もなく、級友とも連絡が取れず、痛みで一旦気絶するように眠ったが、また腹痛で目が覚めた。
そのとき、これはただ事ではないと感じ、自分で市民病院の救急外来に行った。
そこで医師に腹部を触診され、「すぐに手術をします」と言われた。
あれよあれよという間に処置が進み、付き添いもなく、一人で手術を受けることになったが、恐怖や心配よりも、「この痛みを早くなんとかしてくれ」という気持ちが強く、手術を受ければ解決すると安堵した記憶がある。
診断は虫垂炎で、一部の組織が壊死しており、腹膜炎の危険があった。
もしあと数時間眠り続けていたら、かなり危険な状態だったかもしれない。
医者は、命を救うのが仕事だから、世間が連休中でも働くのは当然…なんてことはない。
きっと、彼らも「ゆっくり休みたいなあ」「なんで連休中も働かなきゃいけないんだ」と思っていたはずだ。
でも、当番だから仕方なく、「何事もなく終わってほしい」と願いながら診療していたのだろう。
私の腹を触診した医師が、深いため息をついたのを今でも覚えている。
彼は心の中で「ああ、来てしまったか。やるしかない。やるからには成功させないと」と覚悟を決めていたに違いない。
職業は違えど、あのときの医師の気持ちはよくわかる。
連休前の診療は、いつも何事もなく無事に済んでくれと願う。
飼主とトラブルなく、後味の悪い思いをしないようにも気をつけている。
さて、今日は普段以上に激務の週末診療。
診察だけでも大幅に時間が延びたが、それに加えて数年ぶりに来院した患者さんがいて、手術以外に手立てがなく、しかも今日中にやらないと危険な状態だった。
やるしかないわな。
スタッフも同じように思ってくれた。
あの虫垂炎のエピソードを思い出しながら、当時の医師と、たぶん同じ気持ちで手術に臨んだ。
そして、なんとか終わったので、今夜はスタッフに好きなものをUberで頼んで労うことにした。
まだ術後の経過次第ではあるが、とりあえず無事に済んでよかった。
自分はこれからボクシング観戦をして、くつろごうと思います。