見落とされた癌

ボクシング元ミドル級世界王座の竹原慎二氏と奥様の共著。
2014年、竹原氏の膀胱癌判明から、抗癌剤・手術を経て、現在に到るまでの本人の闘病記と、奥様の看病記を時系列で併記した形になっている。

病気は違えど、同世代の著者と偶然にも同時期に手術を実施(過去ログ2013年10月参照)し、それが両者とも、なんと当時の最先端医療ダヴィンチ手術だったことで、とんでもなく共感を持って読めてしまった。
信頼できる医師と出会えた幸運、手術が実施されるまでの焦燥感と身体的苦しみ、術後の社会復帰に向けての苦労・・・いちいち頷きながらページをめくった。

著者も私も、保険適応外の手術であり高額な費用を全額自己負担したが、臨床試験という形をとり、いくらか大学病院側が負担してくれたところも一緒、自分と同手術を先に受けた患者の数を尋ねて、その人数の少なさに不安になるが(だから臨床試験になるわけだが)、懇切丁寧にダヴィンチ手術の利点と、その手術に対する適応性を執刀医自ら説明してくれたことで、絶対的な信頼が生まれて賭けてみる気持ちになれたことまで、まるで当時の自分の実体験を再現してるような記述だった。

更に、いよいよ手術というとき、手術室の様々な機械を興味深く眺めてしまう様子や、麻酔導入剤を投与されて以降の記憶が全くない、夢さえも見ない「無」の世界を経験して、「死ぬ」とはこういう状況なのかな〜と想像した心境まで一緒だったので、思わずニンマリしてしまった。

しかし本書と異なり、私は家族のアシストを受けられる状況になかった。
これに関しては今なら、自業自得だがな、と自分にツッコミ入れられるし、手術が済んで解決した私と、これから再発転移を注意しないといけない著者を同列では語れず、今後も著者には奥様とタッグで癌と闘い、最後は日本人には無理とされたミドル級世界王座奪取のときと同様、勝つ姿を見せてほしいと思った。

大きな病気と闘いながら前向きに生きていく著者と、それをアシストする奥様の心情や方法論が、わかりやすく述べられているので、突然の病気に気が動転した方や、その家族にオススメの一冊だろう。

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